香ばしい曖昧

成瀬郁の備忘録

花束みたいな恋をした

 

『花束みたいな恋をした』を観た。

 

坂本裕二×菅田将暉×有村架純に惹かれて、フラッと映画館に吸い込まれてしまった。

 

ふつうによかった。

カップルでは観ないほうがいいとかって評判をきいて、どんなに胸が抉られるかとワクワクしていったけれど、ふつうだった。

 

大学生カップルが付き合って、同棲し、社会人になって別れるまでの5年間が描かれているんだけど、ただの自分だった。なんかあまりにも"こないだのこと"だった。

それくらい自然でふつうでリアルだった。そこがこの映画のすごいところだなあと思った。

 

どんどん相手との共通点が見つかって、嬉しくて楽しくて、この人は他の誰とも違う、運命だ、と思う出会いとかね。趣味が合う相手とデュエットするカラオケの気持ちよさとかね。  

 

しかし有村架純ちゃん演じる絹ちゃんにはボディブローのように打撃を受けた。「こういう人とは付き合いたくない」の条件とかおじさんばっかりのカウンターでひとりラーメン食べてるとかしれっと名刺集めに行ったりとか「一回くらいは浮気したことあるよね?」とかちょっと人とは違うわよっていう謎のこだわりとか、あと極めつけがモノローグ。あ、わたし普段から心の声こんな感じだわ、と思った。

 

 

 

大学生の頃、何者かになりたくてなれなかったわたしたちは「自分なりのこだわり」ってやつを持ち寄ってどうにかこうにか特別なふりをして、おなじく特別なふりをした相手に恋をして、特別なふたりになりたがった。

 

だけどその「自分なりのこだわり」ってなんだよ。

 

好きな言葉に「バールみたいなもの」をあげるやつなんて、いなさそうでいて絶対他にもいるんだよ。そんなこと薄々わかっていて、だけど見ないふりをして、あなたのそういう感性が好き!とか思う。んだけど、しばらくして恋が常温になったとき、結局はその個性や感性なんてものはその時代のひとつのカルチャーに過ぎなかったんだと気づく。わたしもあなたも全然特別じゃなかった。特別なふりをして孤独になりたがらないでよ。そんな小さな絶望を、誰にも言えなかったけど、何度か繰り返したモラトリアムだった。

 

 

 

最後の別れ話のシーン、その演出はちょっとくさいんじゃないのと思いつつ、ふたりのやりとりは秀逸だった。

お互いに「今日、別れるって言う」って言ってたくせに菅田将暉よぉ。別れ話でプロポーズするやつ……絶対いるよね、わたしだ。いやもう内心ダメだとわかってるんだ、だけどさ、"別れたほうがいい"けど"別れたくない"んだ、これが好きだけじゃうまくいかないってこと?なんなんだよ人生。

 

恋は盲目。自分の選んだ相手がたいして特別ではなかった、と気づいてからが本番だ。というか、はじめから特別な人間なんてそんなのどこにもいないんだ。わたしとあなたの関係性の中にしか真実はない。たとえあなたが選ばれし勇者様でなくたって、わたしにとってはかけがえのない存在だよ。

 

冒頭にふつうだったって書いたけど、嘘です。ジワジワ効いてくるタイプでした、訂正してお詫びします。

 

 

2021年2月